涅槃会にちなみ
                  紫波町・高金寺住職・大松博典


 「涅槃会」についてお話しいたしましょう。お釈迦さんが亡くなられた日は
二月十五日。この日を「ネハンの日」と言い、その徳をたたえお釈迦さん
の教えに親しむ法要を「涅槃会」といいます。

 では、お釈迦さんは亡くなる前、いったいどんな遺言を残されたのでしょ
う。答えはふたつあります。

 ひとつは、「自分を大切に、自分を拠り所として、たった一度の人生を精
一杯活きなさい」ということ。
 これを「自灯明」といいます。ローソクのあかりを想像してみてください。
ローソクは自らを燃やしながら、周りを明るく照します。

 そのように、なんと言っても世界中たったひとりの「あなた自身」が拠り
所にならなければものごとは始まりません。

 あなたの体で、あなたの心で、あなたを拠り所として人生を歩む教えそ
れが「自灯明」です。

 もうひとつは「お釈迦さんの教えに学ぶ」ことです。これを「法灯明」とい
います。
 八十年の生涯を生きられたお釈迦さんは、折り折りに、たくさんの人々
にたくさんの教えを説かれました。生きる知恵を説かれました。その教え
のひとつひとつに学ぶのが「法灯明」です。

 さて、およそ二千五百年前の人、お釈迦さんが今でも色あせずに豊か
に語りかけてくる背景はいったいどこにあるのでしょう。

 大昔の人ですから、とっくに忘れ去られてもおかくしくはありません。そ
れなのに忘れ去られないのはなぜでしょう。

 私はその秘密をこの二つの遺言にあるのではないかと思っています。
つまり、他でもない「あなた」を大切にしないといけませんよといい、生き
る道しるべを見失った時は「たよりになる教え」がありますよと言う。

 この二つを守って生きて行く。それが「涅槃の日」なのです。