猿は木から落ちる
                    雫石町・広養寺住職・平井正道


 最近テレビなどで日光の猿の餌付けによる地元の商店や観光客への被害
がよく報道されております。いたずらが過ぎる猿にも少なからず怒りを感じま
すが、原因をつくったのは一体誰でしょうか。

 インドにこんな仏教説話があります。一人の修行僧が森に来て坐禅をしてお
りました。やがてお昼となり、弁当を持ってきた修行僧は食事をはじめます。
そこに何処からか猿がやってきました。人なつっこい猿に彼は弁当を半分わけ
てあげました。

 翌日も、次の日も同じことが行われ、とうとう猿に弁当を分けてあげることが
習慣となってしまいました。そして数ヶ月経ったある日、その僧はうっかり弁
当を持参するのを忘れてしまったのです。

 彼は一食くらい抜きにしても別に困りはしません。しかし猿は、僧にしつこく
食べ物をねだります。「今日は忘れたんだ」といくら弁解しても、猿は一向にわ
かってくれません。

 どこかに食べ物を隠しているだろうと疑った猿は、ついには僧に飛びかかり
袈裟を剥ぎ取ろうと必死です。

 あまりのしつこさに、僧は怒りを爆発させて、そばにあった棒切れを投げつけ
ました。打ちどころが悪かったのでしょう、猿はその場にグッタリとして動かなく
なりました。

 修行僧は最初から安易な気持ちで弁当を与えなければ良かったのです。そ
して自分の修行のために絶対弁当を忘れてはいけなかったのです。

 その時だけの同情やうわべだけの愛情でなく、本当の意味で相手を思いや
るこころ、慈愛のこころをいつでも持っていたいものです。

 このままでは、日光の猿は今に木登りも、木の実を食べることもしなくなり、
木から落ちる猿を見るのも時間の問題となりそうです。
 本当の思いやりのこころを持つ力を養いたいものです。