ハンセン病のこと
                          東山町・観林寺住職・高橋哲秋


 縁があって、数年前(1995年10月)より国立療養所「東北新生園」におじゃまするようになりました。「新生園」は、ラムサール条約で有名な伊豆沼の近く宮城県迫町にあり、瀬峰と築館の町境の山の中にあります。
 
 入所している方々の平均年齢は75歳を超えています。40年も50年も住んでいる人も少なくありません。現在、約230人が生活しています。また、昭和14年(1939)の開園から670人以上の方が、ここで亡くなっています。

 入所者のほとんどは、家族に迷惑をかけないために偽名を使い、病気が完治しても自宅に帰ることも許されず、年間約10人の人が仲間に送られながら火葬され、園内の霊安堂に安置されています。

 この施設はハンセン病療養施設と言います。この病気は最近まで「らい病」とよばれ、不治の病とか業病などといわれ、遺伝病とか、恐ろしい伝染病と思いこまされていました。 しかし、このことは間違いです。「らい病」という言葉も差別用語です。

 ハンセン病は、遺伝病でもなければ、不治の病でもありません。乳幼児の感染以外は、ほとんど発病の危険性がないほど、きわめて伝染力の弱い病原菌による慢性の病気です。

 現在、この病気にかかる人は、全国で10名以下です。体の変形は、適切な治療が行われなかった結果であり、入所者のほとんどが完治しています。

 およそ60年も前に治療法が確立されて完全に治る病気であることがわかっており、少なくとも1960年には違憲性が明白だとされていたにもかかわらず、「らい予防法」のもとに強制隔離は法律廃止の一昨年(1996年4月)まで続けられました。

 このような施設は、全国で15カ所あり、五千人以上の方が暮らしています。
 療養所で暮らす方々は、警察官によって強制収容された時の状況や世間につまはじきにされた忌まわしい出来事を忘れていません。

 1996年1月8日の菅直人厚生大臣の謝罪以来、同年4月の予防法廃止、2001年5月11日の国家賠償の判決、同年7月の岩手県知事および議会の謝罪と名誉回復への努力の表明など、最近はマスコミにも取り上げられるようになりましたが、隔離されているが故にその現状はあまり世間に知られることもありませんでした。

 二度と同じような過ちを犯さないためにも、ハンセン病の歴史と現状について、私たちは正しい理解をしなければなりません。現在でも差別と偏見は続いています。

 里帰りの旅行もバスの中から実家を眺めるだけ、宿泊する旅館どころか、昼食をとるドライブインを確保するのも容易ではありません。家族に迷惑がかかることを怖れて、お墓参りさえままなりません。身元をはっきりすることによって、再び家族が世間からの差別や偏見を受けることを怖れるからです。

 二度とこのような人権無視がないように、皆様のご理解をお願い致します。
入所者の方々は高齢者です。今も親の墓参も出来ずに亡くなっていく人がいます。

 一日でも早く、お墓参りができるような受け入れ体制をつくっていただきますよう、切にお願い申し上げます。