アリガトオヨ 
                  紫波町・蟠龍寺住職・中野英明


 日本で一番美しい言葉は「ありがとう」という言葉では
ないでしょうか。お世話になった方に、心からの感謝の
気持ちを笑顔で「ありがとう」と伝えたいものであります。

 過日このような新聞記事が載っておりました。ある町
に九十歳を越えたおばあさんが暮らしておりました。
隣にはおばあさんのホームドクターのお医者さん夫婦が
住んでおりました。

 おばあさんは、尊敬する先生に取り立ての新鮮な野菜
を届けたりしておりました。先生は先生で「おばあちゃん
は私の人生のお師匠さんさ」といつも言っておられました。
 
 しかし、おばあさんも寄る年波には勝てず先生の手厚
い看護もむなしく、息を引き取りました。二週間後、おば
あさんの娘さんが遺品を整備していたところ、遺言が出
て参りました。

 それは粗末な厚紙に、鉛筆でたどたどしく書かれた「セ
ンセイ、センセイ、オクサン、アリガトウ」という文字でした。
読み書きの出来なかった、おばあさんがいつ習ったのか、
カタカナで精一杯表現したお礼の遺言でした。
 
 それを娘さんから見せてもらった先生はぽろぽろ涙を
流して感激したそうです。四十年間、医院を開いてきた
先生にとって、遺言のお礼は初めて、立派に表具して、
診察室に掛けているそうです。 
 
 おばあさんはお世話になった先生夫婦に、自分が出来
る最大限の真心を「アリガトオヨ」と書き残したのです。
 
 私たち人間間社会は言葉によって自分の考えや気持ち
を相手に伝え、相手の言葉を通して意志の疎通を図る事
ができます。

 言葉一つによって、互いに心豊かになれるのです。
心から「ありがとう」と言える人に、又「ありがとう」と言われ
る人になりたいものであります。