彼岸について 
                 宮古市・心公院住職・牧野栄山 


  9月に入り、秋の気配が感じられる頃となりました。9
月は彼岸の月であります。
  春3月の彼岸の頃は寒さもやわらぎ明るい希望に満
ち、また9月は残暑も鎮まり実りの秋を控えともに快適
な気候で、生きるものの喜びが溢れてまいります。
 
  さてこの彼岸についてでありますが、いろいろな迷い
や苦しみの多い私達のこの世界をこの岸、「此岸」とい
うのに対し、このような迷い苦しみのない悟りの世界が
彼の岸、「彼岸」であります。
 
  此岸に生きる私達人間というものは、つい自己中心
にものを考え、行動し、他人と同じ世界に生きているこ
とに気付かず狭い世界に生活しがちであります。
 
  彼岸のこころは、人間としてどんな生活をするか、ど
のようにつとめてゆくかというところにあります。
 
  お釈迦様は彼岸に到る六つの教えを示されました。
迷いのこの岸から悟りの彼の岸へ度る六つの行いを実
践し、さらに自分が度る前に他の人を度そうとする心、
これを「菩提心」と申します。

  この限りなく深い慈しみの心が菩薩の心であります。
お釈迦様が示された六つの教えとは、 
 一つに、報いを願わず惜しみない施し、布施行であり
       ます。
 二つ目は、仏様の示された日常生活のきまりを守り、
       浄らかに人間らしい生活をすること。
 三つ目は、いかりの心を鎮め、苦しみに耐え忍ぶこと。
 四つ目は、怠けず正しく自分のつとめに努力すること、
      そしてその努力を繰り返し積み重ねることであ
      ります。
 五つ目は、浄らかな心、誠実な心でものごとをよく見極
      めて行動することができるよう、姿勢を正し、息
      を整えて落ち着くこと。
 六つ目は、慈しみの心から生まれる尊い智慧を培うこと
      であります。
  世の中はいじめや差別、高齢化、不治の病、環境破壊、
多くのさまざまな争いなど、今日ほど仏様の教え、菩薩の
心ということについて考えてみることが必要なのではない
でしょうか。
 「今日彼岸、菩提の種を蒔く日かな」という句がございま
す。理想として考えるだけでなく一人一人が「菩提心」を実
践しようとするところに彼岸のこころがあろうかと思います。