不殺生戒
               江刺市・金性寺住職・金盛宏仁


 稲刈りに備えて田んぼの草刈りをしていました。とそ
の時、トットットッと音がするので顔を上げますと、一枚
上の田んぼの畔を、カモシカがゆっくり走っていました。

 ほほうと思いながら、その黒っぽい姿が東の草むら
に隠れるまで見ていました。
 

 そう言えば、今年は蛍が多く飛んでいたなあ、夏の日
が暮れて、夕食前、犬の散歩がてら田んぼの中の農
道を歩くと、いつにも増して蛍の乱舞を楽しむことがで
きました。

 蛍は水がきれいにならないと棲みつきません。農薬
を制限するようになったからでしょう。毒物が薄れ汚
濁の浄化された流れが復活すれば、更に楽しい生き
物が誕生してくるでしょう。

 蝉の声はまだ少なかったが、是でアゲンズが群れる
秋空があれば、我がふるさとの環境改善も一歩前進
かなあと思いました。
 

 仏教の戒律の第一は「不殺生戒」です。文字を直
訳すれば、生き物を殺すなですが、私たち人間は、
所詮他の生き物の生命をいただかなければ生きては
行けません。


 私は、この「不殺生戒」ヲ、無益な殺生をするな、人
の生命は勿論、まわりの生命をも大事にせよ。という
ことだと理解しております。


 子供の頃を振り返ってみますと、老人達は、このお
釈迦さまの教えをふまえて私どもを育ててきたように
思います。
 

 タラの木の萌えを採るときは、全部摘まないで残す
ような採り方をしましたし、ぜんまいも根こそぎ採る
ようなことはしませんでした。


 夜蜘蛛がスーッと天井から降りてきたのをみて、
叩き落とそうとしたら、おばあさんが、「だめだ、夜出
てくる蜘蛛は、よくも来たといって放してやるものだ」
といって、団扇に載せて外に出してやりました。


 「自然との共生」ということの大事さに私達もやっと
気付いてきました。
 

 動物の生命ばかりではなく、植物の生命をも大事
にすることが、私達人間の生命を大事にすることに
つながるというのお釈迦さまの説く「不殺生戒」の本
当の意味だろうと思います。


 曹洞宗では、今「人権・平和・環境」をモットーに運
動をすすめています。
 今回はその中で、「環境」の問題を仏教の戒律「不
殺生戒」に触れながらお話ししてみました。