兎と亀のかけっこ
                   インド人はかく教える
                                  
              遠野市・曹源寺副住職・菊池良行


  皆さんは、「兎と亀のかけっこ」のお話は良くご存じ
の事と思います。ある日、兎が脚の遅い亀をからかい、
どちらが早くゴールできるか、かけっこによって決着を
つけようとしたあの物語です。

  兔は油断をして昼寝をしてしまい、亀に負けてしま
いました。油断を戒め、一歩一歩努力する姿を称讃
する内容のお話です。

 日本人は、勤勉な気質を亀の姿に重ね合わせ、戦
後荒廃した国土を復興し、国土な文明社会を手に入
れようと一生懸命努力してきました。

  世界中の御馳走を腹一杯食べることができ、高価
なブランド品があちらこちら溢れる、豊かな生活を享
受できる幸せを築き上げました。

  言うなれば、「物の豊かさ」の追及が私達の姿のよ
うです。しかし、「物の豊かさ」の追及は、時として自分
勝手に現れ、悲しい事件が後をたたないのも現実です。

 
  同じ「兎と亀のかけっこ」の話をインドですると、「昼
寝した兔は、もしかして病気で苦しんでいたかも知れな
い。亀はどうして兔を気遣ってあげないのだ」と異口同
音に、日本とは全く違う答えを言うそうです。

 

  インドは大きな国ですが、大多数の人々は、その日
の生活が精一杯で、グルメや、おしゃれを楽しむ余裕
は無いのが現状です。 交通機関も時刻通りに運行す
るのは稀で、ある意味で日本とは、相反するお国柄と
いえます。

  しかし、兔を気遣うインドの人々の心の優しさは、
現代の日本人が忘れてしまった相手を思いやる優しい
気持ちに満ち溢れています。「物の豊かさ」の追及が
「心の貧しさ」を増やしてしまっていることは、何とも皮
肉な結果です。

  これからは、「相手を思いやる優しい心」つまり「心
の豊かさ」を決して忘れる事の無いように、毎日の生
活に活かしていきたいものです。