貧しさの中の幸せ

              江刺市・円通寺住職・荒川顕芳


  今日は、本当の幸せについて考えてみたいと思います。
お釈迦様は「小欲ちそく」の教えを説かれました。つまり、
「生きていく上で欲は出来るだけ少なく、満足することを知
る。」という教えです。

 今日の日本は経済大国と言われ、物質的には大変豊か
な社会になり、お金さえあれば何不自由のない暮らしが出
来る状況にあります。 
 
  しかし、このような現代の日本人は本当に幸せだと言え
るのでしょうか。便利な生活を求めて、ただあくせくと働くこ
とのみ没頭した人を思いやる心や、大自然の恵みに感謝
する心を忘れ、己の欲望を満たそうとする生活に明け暮れ
てはいないでしょうか。

 私は今年の二月、仏教の発祥地インドの仏跡を尋ねる
機会を得ました。インドは広大な国土に九億もの人々が
住んでいます。

  多くの民族が様々な風俗習慣を維持しながら生活して
おりました。中には必ずしも恵まれているとは言えない人
々も見かけましたが、どの民族にも共通して言えることは、
みな信仰を持って日々の生活を営んでいるということです。
  恵まれた気候風土の中でゆったりと働く農民、豊かな
資源を生かして明るく働く工場の人々、農村から売りにく
る生産物を買い求めるバザールのにぎわい。そこにはお
おらかな心と満ち足りた人々の表情が見受けられました。

  貧富の差こそあれ、どの人々も働くことに喜びを感じ、
今日一日の生活に感謝の祈りを捧げている人々の姿を
見て、私は日本人と大きく違うことに気づきました。 貧し
さの中にも、大地の恵みに感謝し、今日一日の命あるこ
とを喜び、大地にひれ伏して祈る民に接し「ほんとうの幸
せ」とは何かをつくづく考えさせられたのでした。